サングラスとクリスマス。
- 8月11日
- 読了時間: 9分
更新日:1 日前
今までいくつアルバイトしたんかなとふと数えてみると覚えているだけでも10以上あった。
その中のひとつが、20代後半くらいに一ヶ月働いたクリスマスマーケット。
ドイツではなく、in 日本、大阪、梅田。
ドイツから日本に帰ってきてからパン屋さんで働いてたけど、そろそろ毎日毎日朝からサンドイッチを作ることに飽きてきた頃にたまたま「ドイツ語、大阪、求人」の検索にひっかかったのが、クリスマスマーケットin OSAKA、だった。
結構何年も続いているらしい大阪の冬の大イベントで、ドイツ大使館とか、ゲーテインスティテュート(ドイツ文化協会)とかも後援に名を連ねていて、確かスカイビルの運営会社が管轄でちゃんとしたイベントのまともな求人という感じ。
「英語もしくはドイツ語ができるとよい」みたいなことも書いてあるから、人生の成り行きでたまたま持ち合わせた自分のスキルもちょっとはいかせるかもと応募した。
その頃は高い方だった時給1000円というのがいちばんの理由。(でも交通費込み)
言われた日時に、今はもうない梅田の長い地下通路を通ってスカイビルの広場に行くと、マーケットの設営真っ最中で、入り口のアーチがどーんと立ってて、その横に立派で大きいほんもののメリーゴーラウンドがあって、店の小屋がたくさん並んで、奥にはどでかいクリスマスツリーがそびえ立っていた。
いろいろは忘れたけど20代の若い日本人が10数人、説明を聞きに集まっていた気がする。
最初はビルの中で日本人のおじさん(多分スカイビルの会社の人)の説明みたいなのがあって、その後すぐ、現場に連れて行かれドイツ人のおばさんにバトンタッチしてその日本人おじさんはいなくなった。
ザビーネというその50くらいのおばさんが、どうやらこのマーケットを仕切っている人物で、目の下のがっつりアイラインや、むちむちの身体にぴちぴちのジーンズや、金髪セミロングにサングラスを乗せている感じとかがドイツ人っぽいな、とは思ったけど私が今まで関わることのなかった”ドイツ人”だなとも感じ、そして、もしかしたらこのアルバイトは私がイメージしていたのとぜんぜん違うのかもなという予感がした。
アルバイトの日本人以外は皆外国人で、ドイツ人と、あとはロシア人、ウクライナ人、ルーマニア人。
求人を出しているスカイビルの人やドイツ大使館のひとは現場には誰もいなかった。
ようは、このイベントはザビーネに丸投げされているっぽかった。
最初の何日間かはマーケットの設営の準備の手伝い。
酒焼けかタバコ焼けかしらないがハスキーボイスで色々とザビーネが指示をだすのだけども、なんというか誰も逆らえないような空気感。
相手に有無を言わせない独特の威圧感。
この人、絶対に本性を表に見せない人だな、という印象。
表情がほぼ変わらない。
バウムクーヘンとかお菓子屋さんとかもあって、私はそっちの方の小屋で働きたいと思っていたけども、振り分けられたのは、いちばん避けたかったホットワイン(グリューワイン)とホットチョコレートと焼きソーセージの店だった。
それはザビーネの店なのだった。
内心ガーンとなってたら、売り子はみな赤いトレーナーを着てサンタの帽子を被ることを聞かされ、さらにガーンとなった。
想像してたんとぜんぜんちがう。
12月1日クリスマスマーケットがはじまった。
マライアキャリーやらのアメリカンなクリスマスソングがずーっとエンドレスで流れている。
ますます想像してたんと違う。
最初の頃はまだそんなにお客さんもなくて、結構ひまで、他のアルバイトの子達と色々話す余裕もあって、ホットワインの店には他に、帰国子女で英語ペラペラのスチュワーデス志望のめちゃくちゃ美人の学生の女の子と、ペルーと日本のハーフの女の子がいてそれなりに仲良くなったのは覚えている。
彼女達も英語が生かせる仕事をイメージしてたみたいで、こんな仕事だとは、、、、まさかサンタの帽子をかぶるとは、、、と思っていた感じ。
話をしているとザビーネが見回りに来て、しゃべってないで客を呼び込め、みたいなことを言ってくる。時給1000円も払ってるんだからねとかも言っていた。
今夜はお客さんが少ないなとみると、平気でアルバイトを数時間で早退させた。
時給1000円は交通費込みなのに。
給料は日払いの現金手渡し。
当時は確かホットワインはコップに入れて1000円で、飲んだ後コップを返却すると500円返金だった気がする。小さめのコップなので、大抵の人は2杯3杯とおかわりする。
スカイビルに入っている会社の仕事帰りの人たちが多くて、最後コップは持って帰らないで返金希望の人が多かったけど、ザビーネは私たちに「コップを売り込みなさいコップを。」みたいなことを言ってきた。
このコップ、中国製大量生産品でへんなサンタのイラストがついていて、センスゼロの代物。こんなん絶対欲しくないと私は思う代物。これを、ドイツ製として売り込めとザビーネは言うてきた。
ソーセージだって”ドイツ直輸入ソーセージ”って看板に書いてるけど日本ハム製造のものだったし、この小屋もメリーゴーラウンドも毎年ドイツから運んでくるから大変なのよ〜とザビーネは宣伝文句としていろんな人に何回も言いまくっていたけど、実際は神戸に倉庫があってそこに置いているらしかった。
毎年あるイベントだもの、普通に考えてそりゃあそうだろ、とは思う。
ちょっと考えたらバレる嘘を平気でつきまくることが不思議。
このマーケットは、ザビーネと彼女の元夫という人物がもつイベント会社が運営していて、バウムクーヘンやビールとフライドポテトやお菓子やさんやらの他の店舗の出展者は出店料をこのイベント会社に払って出店しているという構図らしかった。
大阪とあとアメリカのどこかでもクリスマスマーケットをしているらしい。
ザビーネと小学生高学年くらいの彼女の息子は普段はドイツに住んでるけども、どうやら元夫はドイツ人だけどロサンゼルスに住んでいるらしい。
今はただのビジネスパートナー。
ザビーネの恋人?愛人?のルーマニア人の若い男が彼女の周りをうろちょろしてた。
人間関係色々複雑。
マーケット期間中の一ヶ月、ザビーネ家族はヒルトンに泊まっていた。
クリスマスマーケットってそんなに儲かるのかとびっくりした。
ビジネスパートナーの元夫もヒルトン暮らし。
ある日ザビーネに「今日は元夫が息子のクリスマスプレゼントを買いに行くので通訳として彼と一緒にヨドバシカメラに行ってくれ」と言われ、ヒルトンのエントランスでまってると、縦にも横にもめちゃくちゃでかい、サングラスをかけたこれまた威圧感半端ない大男がでてきて、それが元夫で、数百メートルあるけば着くヨドバシカメラにいくのにわざわざタクシーを呼んでタクシーでヨドバシカメラに行った。
タクシーの車内はシーンとして話すことなどなにもない。
今思い出してもシュール。
ヨドバシカメラで息子のプレゼントに元夫がなにを買ったのかとかはおぼえていない。
息子をザビーネは溺愛していて、息子の前だけは顔つきも目つきもまったく別人だった。
こんなに優しい顔できるんや、この人、とおもった。
息子には家庭教師がついていてホテルで勉強したりしてすごしているらしかった。
時々見かけたけど、アメリカ映画の中に出てくるようなわがまま言い放題のどうしようもない子だった。
元夫の大男は時々マーケット内をゆっくり歩いているだけで、何のためにいるのかまったく謎。
ビールとフライドポテト屋台経営の家族が、アルバイトの日本人の若い子達に半強制的に自分たちの洗濯物を持って帰らせ家で洗濯させていたということがあったり、なんだか色々と信じられないようなこともちょこちょこあった。
ザビーネは東京の六本木ヒルズでもクリスマスマーケットが行われているという情報を得て、そこに自分も進出しようと目論んだのか、ある日私を通訳に連れて東京に行った。
新幹線で行ったのだけど、その車内ではいつもの本性を見せない彼女の雰囲気とは少し違っていてそれなりに何か話したけども、ひとつおぼえているのは、「誰も信用してはいけない。たとえ夫だって絶対に信用してはいけない。」というようなことを語気強めに言ってたこと。「誰も信用してはいけない」と思いながら日々生きている彼女の人生、きっと色々なんだかんだあったんやろなとは思う。
福岡にも進出を目論見、また通訳として連れて行かれたけども、東京、福岡、どちらでもそれなりに何人かの人達としゃべったけど、その後なにか進展があったのかどうかは全く知らない。
六本木ヒルズで開催されてたクリスマスマーケットは小規模だったけど、売られているのはドイツの素敵な木のおもちゃやクリスマスオーナメントで、ちゃんと全部ほんものだった。
はっきり言ってこれが私が想像していたクリスマスマーケットだった。
朝イチで新大阪で待ち合わせて1日通訳同行で、神経疲れて帰ったら「昼ごはんも奢ったし、これくらいでいいでしょ」と5000円を手渡され、え、安....と思ったし、色々うんざりだしブラックな色々もはなはだしく、早くクリスマスが終わってくれ、もうこの人とは関わりたくないとだけ思いながら毎日梅田に通った。
クリスマスが近づくと、びっくりするほどの人が押し寄せた。
これが本場のクリスマスマーケットなんだなあ、これはすべてドイツ製!
と信じて疑わない日本人のお客さん達の笑顔をみながら、内心とっても複雑だったけど、しかしなんだかすんごい商売だなあ、こんな世界もあるんだなあと思いながらこれも経験と適当にわりきって働いて、その年のクリスマスが終わった。
ふと思い出して検索してみたら、あのブラックな”ザビーネのクリスマスマーケット”はコロナの時に幕引きをしたようだった。
上の文章、だいぶ昔に書いたのだけど、書いた後、これ、なんかの拍子にザビーネに見つかったらどうしよ、、と急になにかが心配になり、下書きフォルダにいれたままだった文章。
なんかの拍子とか絶対ないのに、それでも念の為やめとこ、と思った私の脳裏に浮かんだのが、巨体にサングラスでマーケットをのし歩くザビーネの元夫の姿だった。
元夫、なんのためにいるのかさっぱり分からなかったけど、なるほどな、とおもう。
金儲けの世界は奥が深い。
今また調べてみたら、コロナ後はまた梅田でクリスマスマーケットは毎冬開催されてるようだけど、日本の会社が主催するイベントとなっている様子。色々とちゃんとしている感じ。
ホットワインのカップのデザインもちゃんとかわいい。
なので、この文章と梅田のクリスマスマーケットとは全くなんの関係もありませんので!
ということを明記して終わります。




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