裸婦デッサン


ドイツの小さな美術大学の絵画科1年生の時、1週間の裸体デッサンの授業があった。

デッサンの先生は外部講師の先生でロシア人の体格の良い年配の女の先生。

りっぱなかぎ鼻とロシア語なまりのドイツ語は今でもはっきりおぼえてる。

モデルは、学生の何人かが割りのいいバイト感覚でひきうける。ほかの学部の学生が日替わりでさらっと脱いで、アトリエの真ん中に立ってモデルになる。その周りにイーゼルをぐるりと置いてひたすら描く。

そんな感じ。

男も女も。

ちょっと変わった美術大学で、変わった人がけっこういた。

まあ、変わった人という概念の定義がよくわからないけれど。変わった人って、変人ってことか。確かに変人多かった。

そのなかでも、かなり変わった学生のひとり、ハイディという女性がいた。絵画科の学生。

学生としてはちょっと年はくっていて、30代ではあったと思う。おばちゃんの領域。

ふくよかでがっしりもしてて、縄文の土偶みたいな感じで、服はのびたTシャツと半パンで、のびた髪もぼさぼさでぷっくりした鼻とほっぺたは赤くて、ヒッピーと魔女を混ぜた感じで、ジブリの映画に出てきそう。とにかくワイルドで健康的でいろんなものを丸かじりしている印象。いつもボーダーコリーを5匹くらいひきつれていた。人間とのコミュニケーションよりも動物とのコミュニケーションの方が得意な感じ。でっかいキャンバスに犬の絵を描いていた。それなりに絵も上手かった。絵もワイルド。

大学の建物は昔の大きな農場を改築したもので、今は規模がとても大きくなってでっかいキャンパスになってるらしいけども、私が在学中はまだまだこじんまりとしていて、建物の周りは畑や緑に覆われていて、ハイディはそこの畑でハーブやら何やらいろいろ育てていた。ただかなり適当。グラスハウスもあったのだけど、そのなかに彼女が穀物やら食べ物やら私物やらいろんなものをおいて無法地帯のようになっていて、ネズミが増えるのでちょっとどうにかしてほしいとさすがに大学からも注意をうけていた。そもそも彼女は学生だったのか、どこかに家があるのか、大学に住みついてたひとだったのか今考えるとよくわからないのだけど。

どこかから馬をつれてきて土を耕す金具を馬に引っ張らせて畑を耕したりもしていた。偶然私はその光景を目撃して、ものすごくびっくりしカメラを部屋までとりにいって写真を撮った。


まあ、とにかくいろんな意味ですごくて、ワイルドさはんぱなくて、気も力も強そうで女っ気はまったくないのだけども、そのハイディが、裸婦デッサンのモデルになったのだった。

彼女にとってはわりのいいバイトだったのだと思う。ロシア人の先生もハイディのことはよく知ってる感じで、しっかりした体格のモデルをさがしていたのかもしれないな。

横たわるポーズ。

さささっと服を脱いで、

アトリエの真ん中の台に横たわる。

裸のハイディ。

それはただただ美しかった。

印象派の絵画のようでもあったし、あの時代の画家達が皆、ふくよかな女性をモデルに絵を描いた理由もわかる気がした。

女性の美しさというものがふにおちたというか。

裸というもののゆるぎない美しさと強さみたいなものも。






写真探したらでてきた。畑と馬とハイディ。タイムスリップしたような光景。今はここにもキャンパスが建ってるらしい。

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